『愛の不時着』で、ユン・セリとピョ・チスがしりとり対決をするシーンが出てきますね。
4話では、開城(ケソン)のリ・ジョンヒョク(演者:ヒョンビン)の自宅で。
13話では、ソウルの「bbq olive chicken cafe」で。
このしりとりのシーン、私にはよく理解できなかったので、韓国人留学生に解説をしてもらいました。
—–(以下、韓国人留学生の原稿をもとに編集)—–
目次
韓国にも「しりとり」があります
韓国にも、日本語の「しりとり」に相当するものがあります。
「끝말잇기」(クンマリッキ)と言います。
単語の最後尾に続ける遊びです。
2人以上の参加者が集まって順番を決め、1人目の参加者が単語を発し、次の参加者が前の参加者が言った単語の最後の文字で始まる単語を言います。
単語を決められた時間内に話せなかった場合、その参加者は負けます。
一度言った単語をもう一度言うことはできません。
固有名詞、人名、方言、古語、新造語、外来語などは参加者の合意で入れたり外したりすることができます。
一般的に、外来語は使わないことが多いです。
韓国語のしりとりの特徴
頭音法則が認められる
韓国語のしりとりの特徴は、「頭音法則」が認められることです。「頭音法則」を認めないと、しりとりの難度が急上昇します。
漢字語の中で、単語の冒頭に「ㄴ」と「ㄹ」で始まる漢字(한자)は発音しずらくて、発音しやい「ㅇ」や「ㄴ」に表記するルール。
これは実際の発音と表記を一致させるためのルールである。「固有語や外来語」、と「単語の冒頭に来ない場合」は適用されない。
韓国語では、「ㄴ」「ㄹ」が最後の文字の初声の単語は多いですが、「ㄴ」「ㄹ」が最初の文字の初声の単語は、(外来語や漢字語を除き)ないのです。
<頭音法則の事例>
漢字音 녀, 뇨, 뉴, 니 → 여, 요, 유, 이
漢字音 랴, 려, 례, 료, 류, 리 → 야, 여, 예, 요, 유, 이
漢字音 라, 래, 로, 뢰, 루, 르 → 나, 내, 노, 뇌, 누, 느
「頭音法則」が認められると、以下のしりとりがOKになります。
남녀(男女)→ 여자(女子) (「ㄴ」が「ㅇ」に変わる)
어머니(お母さん)→ 이발소(理髪店) (「ㄴ」が「ㅇ」に変わる)
기류 (気流)→ 유행(流行) (「ㄹ」が「ㅇ」に変わる)
관례 (慣例)→ 예의(礼儀) (「ㄹ」が「ㅇ」に変わる)
미래 (未来)→ 내일(明日・来日) (「ㄹ」が「ㄴ」に変わる)
난로 (暖炉)→ 노인(老人) (「ㄹ」が「ㄴ」に変わる)
スマッシュワードが存在する
スマッシュワードとも言うべき「한방단어」(一発単語)が存在します。
特定の単語の最後の文字で始まる単語が全くない場合があります。
例えば、「알루미늄」(アルミニウム)、「부엌」(キッチン)などのスマッシュワードの最後の文字「늄」「엌」で始まる単語はほとんどありません。
ですから、このような「한방단어」(一発単語)を繰り出せば、勝てる可能性が高まるのです。
『愛の不時着』でのしりとり
『愛の不時着』4話。
リ・ジョンヒョクの家で「조개 불고기」(貝プルコギ)パーティーを楽しんだ後、酩酊したユン・セリとピョ・チスはしりとり対決を始めます。
この二人のしりとりの特徴は、韓国の言葉と北朝鮮の言葉が混ざって使われるということです。また、5カウントルールがあります。
『愛の不時着』4話のしりとりはこうでした。
ユン・セリ「계단(ケダン)」※階段の意味
↓
ピョ・チス「단묵(タンムク)」※後述
↓
ユン・セリ「묵사발(ムクサバル)」※後述
↓
ピョ・チス「발바리차(バルバリチャ)※後述
↓
ユン・セリ「차가버섯(チャガポソッ)」※後述
↓
ピョ・チス「섣달그뭄(大晦日)<失敗!>」「서쪽하늘(西の空)<失敗!>」
出てきた言葉を解説しますね。
■北朝鮮語:단묵(タンムク)」
北朝鮮のゼリーお菓子だそうです。
以下は、1997年産の단묵を机から見つけた人のレポートです。
■韓国語:묵사발(ムクサバル)
묵(ムク)とは、韓国の伝統食品で、穀物などのデンプンを固めたもの。
묵사발(ムクサバル)は、ムクとスライスした野菜の冷たいスープです。
参考:https://haemukja.com/recipes/843
■北朝鮮語:발바리차(バルバリチャ)
韓国で「발바리(バルバリ)」といえば主に体が小さくて足の短い犬です。
北朝鮮では、タクシーは背が低い自動車だということで、「バルバリチャ」と呼ばれています。最近の北朝鮮ではタクシーと言うこともあるようです。
■韓国語:차가버섯(チャガポソッ)
キノコの一種のカバノアナタケです。
参考:http://www.polinews.co.kr/news/article.html?no=446643
愛の不時着のしりとりの感想
『愛の不時着』のしりとりの感想です。
4話のしりとり対決
4話のシーン。
韓国人のユン・セリは、「ダンムク」、「バルバリチャ」などは知りませんが、「北朝鮮にはそんなものがあるのか」、「タクシーなら韓国にもあるよ」と答えながらピョ・チスの答えを容認します。
北朝鮮の言葉を規則で認めたため、ゲームは続行されます。
ユン・セリは、「차가버섯(チャガボソッ)」(カバノアナタケの意味)と言いますが、「섯」で始まる単語はそれほどありません。
そのため、ジュモクは「섯이면 이거는 끝난 거 아닙니까」(섯なら、これは終わったんじゃない)と言い、グァンボムも「끝났지」(終わった)と同調します。
つまり、ユン・セリはここでピョ・チスに「한방단어(一発単語)」を言ったのですね。
ピョ・チスは、「섣달그뭄」(大晦日の意味)と答えますが、「섯」で始めなければいけないのに、「섣」で始めています。これは反則です。
諦めないピョ・チスはさらに「서쪽하늘」(西の空の意味)と答えますが、これも「섯」ではなく「서」。
二人のやり取りを見守っていた、リ・ジョンヒョクは諭すようにゆっくりと「서쪽하늘」と言います。
5つを数えるまで次の単語を話すことができず、ピョ・チスは負けます。
ピョ・チスは、ユン・セリの「デコピン」を回避して、お酒を飲みます。
第5中隊のメンバーは、
빨리빨리 마시세
어서어서 마시세
안 마시먄 졸장부
잘 마시먄 대장부
という北朝鮮の一気コールで盛り上げます。
なお、この一連のしりとりの様子は、「耳野郎」ことマンボクが全て盗聴しています。
※ドラマの中では、「귀때기」(クィッテギ)が北朝鮮で盗聴者を意味する隠語として使われていました。
13話のしりとり対決
さて、13話で再び、しりとりが登場します。
ソウルの「bbq olive chicken cafe」で、「韓日戦」を楽しんだ後、再び、ユン・セリとピョ・チスはしりとり対決を始めます。
日本にも、笹塚と大鳥居に「bb.q OLIVE CHICKEN cafe」がありますよ。
Uber Eats(ウーバーイーツ)でデリバリーも頼めるので、利用してみてください。
今回も前回と同様に、二人とも酩酊した状態でのしりとり対決です。
前回と違うところは、4話の時点では「耳野郎」として、しりとりを盗聴していたマンボクも楽しそうに観戦者として加わっていることですね。
ユン・セリはここでも「한방단어(一発単語)」を繰り出します。
「양송이버섯(ヤンソンイボソッ)」(マッシュルームの意味)です。
4話での「차가버섯(チャガボソッ)」(カバノアナタケの意味)と同様、「섯」で終わる言葉です。
そして、また、キノコです。
ピョ・チスは「넌 왜 만날 “섯” 이야 씨」(なんでいつも”섯”なんだ)と叫び、また負けます。
ピョ・チスはビールを一気飲みしますが、その時の一気コールは、4話のときと全く同じものです。
ピョ・チスが勝つ方法はいくつかあります。
「섯」で始まる単語を探すことです。
例えば、「섯녘」。 4つの方位の一つです。
もしくは、「섯듣다」は「混ざって落ちる」という意味です。
また、「섯흘리다」は「混ぜて流す」という意味です。
ピョ・チスが「섯」で始める単語を熟知し、暗記しておけば、セリに勝てたかもしれません。
特に「섯녘」は「한방단어(一発単語)」です。
「녘」で始まる単語はほぼありませんから。
しかし、もしセリがしりとりの達人であったら、「녘」で始まる単語は既に熟知していたかもしれません。
「녁새발」とは、「日が暮れる前に鳴く鳥」という意味ですが、これは普通の韓国人なら、見ても全く分からない単語で、ひたすら、しりとりに勝つために覚えた言葉です。
韓国語のしりとりに興味を持った方へ
韓国語のしりとりに興味を持った方へ、以下も紹介しておきます。
しりとり芸能:恐怖のクンクンタ
「공포의 쿵쿵따」(恐怖のクンクンタ)です。
韓国の国営放送KBS2テレビで放送された「일요일은 즐거워」(日曜日は楽しい)の後半戦ゲームです。
クンクンタゲームが始まってから芸能プログラムの人気を集めました。
現在、有名な「국민MC」(国民司会者)と呼ばれる유재석/ユ・ジェソク、강호동/カン・ホドンが登場します。
쿵쿵따クンクンタはリズムに合わせて3音節の単語だけでしりとりをするゲームがメインです。
音があまりにも有名なので、すべての韓国人が知っています。
「공포의 쿵쿵따」 恐怖のクンクンタのルール:
- 3文字の最後を拍子に合わせます。
- 地名、人名などの固有名詞が許されれます。外来語も認められます。
- 頭音法則が認められます。
- リズムに合わせて正しい単語が話せなかったら、罰ゲームを受けます。
- 禁止単語も指定可能です。普通、漢方の単語を指定する。
興味がある方は、以下のYouTube動画の28:07から御覧ください。
KKutu クトゥオンライン
KKutu끄투は、ワンマン開発のオンラインしりとりゲームサイトです。
2014年に発売されましたが、2017年に韓国のゲームYouTuberの間で流行し、プレイヤーが急増しました。
簡単なウェブしりとりサイトで、基本的なしりとりの他にも「単語対決」、「クンクンタ」、「英語のしりとり」のモードなどがあります。
ゲーム方法は既存のしりとりと似ていますが、文化語、方言、古語、外来語などが入力できるという違いがあります。
標準国語大辞典に記載されていない固有名詞(例:ライトノベルのタイトル、鉄道駅、バスターミナルの名前、ポケットモンスターのキャラクター名など)を複数設定できます。
文字数が長い単語を打つほど、一度に取れる点数が高くなります。
以下がそのプレイ動画です。
—–(以上、韓国人留学生の原稿をもとに編集)—–
まとめ
原稿書いてくれたYさん、ありがとうございます。
よく理解できました。
そういえば、日本語のしりとりも「ら、り、る、れ、ろ」の言葉で追い詰めると勝ちやすいですよね。
韓国語も日本語も、外来語や漢語を除いて、「ら、り、る、れ、ろ」で始まる単語が少ないというのは興味深いもんですね。